PanさんのCDコレクション 参
ぼくのファンならどなたもご存知、なんでも三回繰り返す主義者のターナーでございます。
と、口調はなんだか綾小路きみまろ。彼って凄いですよね。内緒の話なんですが、ぼくは激惚れしています(笑)。
きみまろさんについては、そのうちにまとめて語りたい。語らせていただく価値が充分にある。
「人間なんておしめで始まっておしめで終わる」ってのが彼の哲学だ。その通りだと思う。ぼくが「介護」の道を選んだのは、きみまろさんのお導きだったとさえ思って感謝している。
きみまろさんの本、『有効期限の過ぎた亭主・賞味期限の切れた女房』、『こんな女房に誰がした?』(共にPHP文庫)はぼくの座右の書と呼んでいい。一度、ご精読されたい。
座右の書か。。。そもそもぼくにとって最初の本って、何だったんだろう?
奇妙な記憶が鮮明にある。
小学校1年生のお正月。その年、父方の祖母はまだ健在で(二年後の4月に脳溢血で亡くなるのだが)まだ52歳と若かった。お年玉のかわりに本を買ってあげるとK書店に連れて行ってくれた。児童書のコーナーで、ぼくが選んだのは『ジュール・ヴェルヌ全集』だった。二人で持ち運びできないほどの冊数だった。版元も翻訳者が誰かもいまは知らない。絵本ではなく、活字がびっしりと多かった。でも抄訳の児童書だったわけだけどね。
幼稚園時代まで読書した記憶は全くない。絵本は数多く眺めていたろうが、本と向き合っていた時間は実際になかったと思われる。その正月(3日すぎ)から、ヴェルヌ全集を夢中になって読んで過ごした。「月世界旅行」、「海底二万里」、「八十日間世界一周」、「十五少年漂流記」、「地底探検」・・・。
このヴェルヌの故郷がフランス・ブルターニュ地方の町ナントだった。敬愛するジャック・ドゥミ監督も同郷の人。長編処女作『ローラ』はここで撮られた。
辻邦生は日記(『パリの時』/中央公論社)にこう書いている。
“T君の懇願でナントに向かう。ナントは連載中の『フーシェ革命暦』の大事な舞台なので前に何回か取材をかねて出かけたことがある。十八世紀から十九世紀初頭にかけて栄えた、ロワール河の舟航を利用した貿易港、かつての栄光を偲ばせる壮麗な町並みや、堂々たる邸宅があり、都会(まち)全体に華やかな感じが漂う。東のナンシーも憂愁を帯びた華麗さを湛え、ぼくの好きな都会(まち)だが、ナントは宮廷風の憂愁感のかわりに商人風(ブルジョワ)の豪華趣味が感じられる。
(・・・・・・)
たまたま駐車したのは、その町に見覚えがあったからだが、それがT君の目ざすパッサージュ・ポムリのすぐそばだったのにも驚いた。パッサージュ・ポムリはかなりきつい勾配になったナントの山の手の、その斜面を利用した石の階段の歩廊(ガルリー)で、両側はショーウィンドーの大きな商店になっていて、頭上を鉄骨、ガラス張りの屋根で覆ってある。パリにも道路をガラス屋根で覆った歩廊(ガルリー)状の細い道(パッサージュ)はあちこちにあるが、このパッサージュ・ポムリは五十段ほどの石の階段があって、見事な石爛にブロンズの裸婦像が配され、それぞれ街燈を支えている。T君がこのパッサージュ・ポムリを見たがったのは、彼の偏愛するジャック・ドゥミ監督の『ローラ』のなかにここが出てくるからだ。(・・・・・・)”
こうして先生とぼくは、彼が以前から懇意にしている古本屋に顔を出して老主人にご挨拶し、ナントの旧市内をひとまわり歩いた。
“港に近いレストランで食事をする。下はカフェ、奥はビリヤードになっている。二階の食堂の壁には水色の地にいかや蛸やひらめや貝などが水族館のように描かれている。壁画に敬意を払ってソール・ムニエールを食べる。”
ナントは辛口の白ワイン「ミュスカデ」で有名な町だ。
“おかかえ運転手”の辻さんの同意を得て(あの独特の、満面に笑みをたたえたお顔の素敵だったこと!)ぼくは最高のやつを軽く一本空けた。「もっといいぜ。君ならいけちゃうじゃないか」、辻さんがグラスのむこうで微笑んでいた。
ワイングラスと、よく拭き取られたピカピカなガラス窓の彼方にはナントの海が光っていた。(実際はロワール河だ!)
なんと綺麗な光景だったろう。
前の夜、二人は島に泊まっていた。美ケ島(Belle Ile)。島で一番のホテルにメゾネット形式の部屋をとり、断崖の上に建つホテルから真っ青な大西洋を眺めながら、ぼくの誕生日を祝っていた。カルヴァドスの古酒を二人で舐めるように飲み、夜更けまでドゥミの映画談義に興じていたのだった。と日記には書いておこう^^;。 素敵すぎ~っ!
ナントの街。時間は午後の最も輝かしく若いとき。
ぼくは辻邦生とさしで向かい合って、ミュスカデを飲んでいたんだぜ。
なんとも美味しい時間だった!
ぺルマナント!! 永遠に止まったままの、辻さんとの至福の時間(とき)よ。
CDは、想い出のすべてをその銀盤に氷結させている。
ジャケットはその心を永遠にあたため、煌めかせる。
音楽! なんて君は美しく活き活きとした“生きもの”なんだろう。
いま、キース・ジャレットを聴いている。『Time on My Hands』。
なんと素晴らしい曲か!両の手のひらに、こぼれんばかりの真珠が輝き溢れている。浄福のとき。辻邦生なら、そう言って微笑むはずだ。







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